東電はALPS処理水の海洋放出をいつから考えていたのか

(以下、31日追記)はてブをいただきました:

東電はALPS処理水の海洋放出をいつから考えていたのか - たたるこころ

海洋放出を当初から想定していたことに異論はありませんが、本質的に事実誤認の指摘になってないように見えます。海洋放水を想定したまま他人の話を聞かずに放水したなら「嫌がられて当然」なのでは。重箱の隅?

2023/08/31 01:05

ご指摘を受けて色々読み返してみたのですが、何が事実誤認なのかという点でいまいち焦点が絞れていないエントリーだったなぁと思いました(時間をかけずに書くとロクなことにならない)。filinionさんの「そもそも東電の計画通りに進むものなら、今頃は処理水は増えてないはずだったのに」というのは、文字通りに解釈するなら確かにその通りで、ここだけを取り上げれば事実誤認ではありませんでした。また「そもそも我が国においても、海洋放出は、当初からの計画ではありませんでした。」というところも、残された資料や文書だけを見れば確かにその通りかもしれません。なぜ私がこのエントリーを書こうとした時にそう思わなかったのか、そして、今でも「そりゃそうだけどなぁ」という気持ちなのか、というところをよくよく考えてみたいと思います。このギャップがいわゆる科学をめぐる不信感の元につながるのかもしれません。(追記おわり)

(以下、1日追記)このエントリーはあまりよく書けていないので、新しいのを書いてみました。

njamota.hatenablog.com

(追記おわり)

 

filinion.hatenablog.com

色々と事実誤認があるようなので、指摘します(filinionさんのエントリーが長い!ので、最初のところだけ)。私は関係者でもなんでもないのですが、あの事故があまりに印象的だったので、いまだにフォローし続けていて、普通よりはちょっと詳しいです。でも、専門家でもなんでもないので、間違ったところがあるかもしれないことはお含みおきください。

エントリーから引用します:

2020年内には
「冷却水以外の建屋内の水や汚染水の増加量をほぼゼロに」
 とあります。(2ページ)

……

その先には
「ALPS処理水の長期的取扱いの検討」ともあります。
 
 つまり、本来の計画では、今頃は汚染水の増加は抑えられ、残った処理水は低レベル放射性廃棄物として国内で処分する予定だったわけです。

以下、誤認と思われるところを指摘します。

2015年6月改定版のロードマップには「冷却水以外の建屋内の水や汚染水の増加量をほぼゼロに」という内容がありますが、2017年9月改訂版ではこの部分に「原子炉建屋では循環注水冷却を行っており、引き続き滞留水が存在する」という注釈が付きます。これは、2015年には想定されていた格納容器の補修が、その後の調査・検討により困難であるという判断が下され、冷却水が建屋へと流出するのを止めるのが難しいという現実を受け入れたための改定です。そして、この注釈付きの建屋滞留水処理完了という目標は2020年12月に達成されています(東電の資料。2ページ目左上の囲みに書いてあります)。
そもそもロードマップは、たくさんの作業が同時並行して行われる廃炉において、それぞれの作業の進捗を齟齬のないように計画するためのもののようです。福島第一原発は事故のあった原子炉があるのですから、現場の調査をするのも容易ではなく、次第に明らかになっていく事実に合わせて改定されていくのがロードマップの本来の姿です。その改定を計画の破綻と考えるのもひとつの立場でしょう。でも、わからないなりに見通しを立てて一歩づつ進んでいき、わかったところは計画に反映させていく、そういう方法以外に現実的なやり方があるとは私は思いません。

「ALPS処理水の長期的取扱いの検討」というのは、ALPS処理水の処分方法についての技術的検討をしていた経産省トリチウム水タスクフォースが2016年6月に出した報告書をもとに、新たに多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会を設置して処分方法について具体的に検討していく、というあたりの話なんだと思います。その後、2020年2月の小委員会の報告書、10月の政府方針(処理水は海洋放出をする)表明と進んでいきました。その中で「残った処理水は低レベル放射性廃棄物として国内で処分する予定」という話は聞いたことがありませんし、引用された資料にも書いてないと思います。

原子力関係の人たちは、ALPS処理水を「海に流すなんて望ましくない。やってはいけないことだ」とは考えていなかったと思います(小出裕章氏などはそうではないかもしれない)。なぜなら、最近よく知られるようになった通り、トリチウムを含む液体廃棄物の海洋放出は全世界で普通に行われている手法であり、濃度、量、期間の全てで安全性に問題ないという実績がすでにあるからです。つまり、関係者にすれば当たり前のように毎日どこかでやっていることなわけです。だからこそ、東電としては2011年の時点で、汚染水を浄化処理した水を海洋放出するつもりだったのだと思います。2011年12月15日に当時の保安院に提出した福島第一原子力発電所第1〜4号機に対する「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その3)には液体廃棄物の「海洋への放出」という言葉が出てきます。ただし、この文書には「液体廃棄物を海洋に放出する」とは書いてない。漁業関係者を含む関係者の反対により書くことができない状況だったのではないかと思います。処分できなければ貯めるより仕方がない。それで、タンクの増設や、地下水バイパスや陸側遮水壁(いわゆる凍土壁)など汚染水の発生を抑制する対策をやらざるを得なくなったわけです。汚染水発生量の抑制対策は、処分を回避するためではなく、むしろ、処分を前提とした処理水の貯留を継続するために必要な手段だったのです。

そういうわけで、ALPS処理水の海洋放出は当初から想定されていたもので、汚染水の発生量抑制に失敗したからそれを余儀なくされたのではない、という事情について書いてみました。疑問があれば、なんなりとお尋ねください。