ALPS処理水の処分を回避する計画は存在したのか

このエントリーは下記のエントリーの書き直しです。

njamota.hatenablog.com

 

上記エントリーは、そもそもfilinionさんのエントリー

filinion.hatenablog.com

について、事実誤認を指摘しようとして書いたものでした。しかしながら、読み直してみるとなんだかよくわからない話になっていたので、改めて書き直してみます。

 

filinionさんのエントリーから引用します:

 そもそも我が国においても、海洋放出は、当初からの計画ではありませんでした。
 
 経済産業省汚染水処理対策事務局の、2015年6月の廃炉ロードマップを見てみましょう。
 
 これによると、2020年内には
「冷却水以外の建屋内の水や汚染水の増加量をほぼゼロに」
 とあります。(2ページ)

(省略)

 その先には
「ALPS処理水の長期的取扱いの検討」ともあります。
 
 つまり、本来の計画では、今頃は汚染水の増加は抑えられ、残った処理水は低レベル放射性廃棄物として国内で処分する予定だったわけです。
 

この部分を要約すると「廃炉ロードマップに従って廃炉作業が進んでいれば、汚染水の発生は2020年までにほぼゼロになっており、処理水の海洋放出をしなくても済むはずだった」ということになるかと思います(もし、この私の認識が間違っているなら、この後の話は全部意味がないのですが、どうなんでしょうか。あまり変な解釈ではないと思うのですが……)。

この部分は、filinionさんの主張「東電・政府は計画通り廃炉作業を進める能力がないから、ALPS処理水の海洋放出も2051年までに終わるかどうかわからないし、現在の安全とされる放出方法が維持される保証もない(から、処理水放出には反対するのはおかしくない)」の一角をなす重要な部分だと思います。

さて、私がfilinionさんが事実誤認していると言いたいのは、さっきの「廃炉ロードマップに従って廃炉作業が進んでいれば、汚染水の発生は2020年までにほぼゼロになっており、処理水の海洋放出をしなくても済むはずだった」の部分です。filinionさんの言う通り、2015年6月のロードマップには2020年内に「建屋内滞留水の処理完了(冷却水以外の建屋内の水や汚染水の増加量をほぼゼロに)」とあります。これが達成できれば確かに今頃は汚染水の発生量はゼロになっていたのでしょう。でも、実際にはこの計画は達成できず、現在でも汚染水は発生し続けています。ただし、その発生量は事故後に日量500トンだったのが、最近では100トンを切るまで減ってきました。これは、地下水バイパスや陸側遮水壁(いわゆる凍土壁)などの汚染水発生量抑制対策を実施した結果です。また、汚染水を貯めるためのタンクも当初の30万トン分から最終的には134万トン分まで増設しました。これらの対策により、今年まで処理水を地上に貯留し続けることが可能だったわけです。しかしながら、これは結果論に過ぎません。なぜなら、汚染水の発生量は降水量に大きく影響されるため、事前に正確に見積もることは不可能だからです。また、汚染水発生量抑制対策がどの程度奏効するかもやってみないとわからないものでした。ですから、仮に2020年までに汚染水の発生量をゼロにできたとしても、2020年までにどれだけの量の処理水が発生するかは、2015年の時点では予測できなかったと思います。もしかして台風が何個もやってきたり、凍土壁が思ったように機能しなかったりしたら、2020年までにタンクが一杯になっていたかもしれません。その場合には、その時点で処理水の処分を始めなければなりませんでした。

何が言いたいかというと「汚染水発生量抑制対策により処理水の処分を回避するという計画は存在しなかった」ということです。2020年までに汚染水の発生量をゼロにするというロードマップの計画はありましたが、それはALPS処理水の処分を回避するのがターゲットではありませんでした。もちろん、汚染水発生量がもっと抑制できていたら、降水量がもっと少なかったら、結果としてそういう状況はあり得たかもしれません。けれども、残念ながらそれは実現しなかった。

昨日31日に、中長期ロードマップの進捗状況について報告する会議に関する記者会見を東電が配信していて、私も見ましたが、その中で「ロードマップで汚染水ゼロを目指すというのが実現できず、最終的に海洋放出やむなしという判断に至った」みたいなことを言う記者がいたので、filinionさんと同じことを言っている人がいると驚いたのですが、これに対して東電の廃炉作業の責任者は「なんらかの形で処理水は処分しなければならないものだとずっと考えてきた」と言っていました。こういう大枠の話は、あまりに当たり前すぎて、うっかりすると失われてしまうのかもしれないと思った次第です。

疑問の点があれば、何なりとお尋ねください。