理性ではコントロールできない情動

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プーチン大統領は自身の命令に背いて「ウクライナでの軍事作戦」に徴兵された兵士を動員した責任者を処罰するよう軍事検察庁に命令した。

 

プーチン大統領ウクライナでの軍事作戦は契約軍人のみで行い「徴兵された兵士や予備役は本作戦に関与させない」と国民に約束していたが、戦死した兵士の身分証や捕虜になった兵士をウクライナ側がネット上で公開を始めたため徴兵された兵士がウクライナでの作戦に大勢動員されている事実が露見…

 

…厳しい情報統制が敷かれているロシアでも「徴兵された兵士がウクライナの戦争に参加していた問題」についてはメディアも取り上げており、徴兵に息子を送り出した母親も積極的に「軍の当局者に騙された」と叫んでいるのが印象的で、早く責任を誰かに押し付けないと「手のつけられない母親の怒り」が自分に向かうことをプーチン大統領は自覚しているのだろう。

 

先日、テレビの生放送(と言われる)ニュースに垂れ幕持参で乱入したお姉さんも、逮捕後3日で釈放されたけど「後でこっそり殺されるんだ」と噂されるロシア。常に政府に命の緒を握られているロシア国民でも、母親は子供のためなら政府に異議をとなえる。母親は子供のためなら自らの命を顧みない。だから、彼女たちには「殺すぞ」という脅しが通用しない。

 

「殺すぞ」というロシア政府の脅しが通用しない相手が他にもいる。それは、今のウクライナ国民だ。彼らは、子供を危険にさらされた母親と同じように、自分の命を顧みずに自分達の国を滅亡の危機から守ろうとする。

 

どんなに権力が強くて無情でも、この手の情動を押さえつけることはできない。それは、そんなことしたら死んでしまうという理路を簡単に吹き飛ばして、人を突き動かすものだ。

 

もうひとり、理性的な理路が吹き飛んでいる人がいる。この戦争をおっぱじめた張本人だ。どこからどう考えても、こんな戦争を始めて得られる現実的な利益はひとつもない。クリミアの併合がうまくいったからといって、ドンバスだって内戦状態が続いているのに、ウクライナ全土が手に入ると思うなんて、どうかしている。仮にキエフを占領することができたとしても、その後に来るのはアフガニスタンイラクで世界が見てきたような混沌だろう。それに、2014年以降の経済制裁で既にロシアの経済規模は韓国と比べても小さいほどに縮小しているらしいのに、今回の戦争に対する欧米の反発と経済制裁はロシア経済の息の根を止めてしまいそうな勢いだ。そういうわけで、政治的にも経済的にも甘く見過ぎで、とても合理的な判断があるとは思えない。

 

プーチンが夢見る大ロシア帝国の再興は、彼自身のアイデンティティと結びついて、それ自体が彼の生きるよすがになっているのではないか。この戦争によって産み出される唯一の利益は、ここにあるのではないか。それもまた、それがなくては生きていけないという情動を彼に呼び起こすのかもしれない。